生命倫理

2006年、山中伸弥博士は奈良先端科学技術大学院で研究実験をしていた高橋和利氏とマウスのiPS細胞を作ることに成功した。さらに2007年には人間のiPS細胞をを作ることに成功した。そして2012年10月8日、スウェーデンのカロリンスカ研究所ノーベル賞委員会は2012年ノーベル賞の医学・生理学賞を英国ケンブリッジ大学名誉教授ジョン・ガードン博士とともに2010年から京都大学iPS細胞研究所(以下略CiRA)の所長になっていた山中伸弥博士に贈ることを発表した。

人を含めた生命体の細胞は誕生から死へ至るにつれ劣化に向かう。一方、再生医療のメカニズムは細胞をリセットつまり初期化することで可能になる。一緒にノーベル賞を受賞したジョン・ガードン博士が1962年にオタマジャクシの腸の核を紫外線で破壊させたカエルの卵子に移植しクローンのオタマジャクシやクローンのカエルに成長させることに成功した。また1981年に英国の生物学者マーティン・エヴァンス博士らによるマウスのES細胞を作り、1998年に米国のジェームズ・トムソン博士による人間のES細胞を作ることに成功した。とくにES細胞の成功がなければ山中伸弥博士がiPS細胞を作ることに成功することはなかったといってもいい。

ただクローン技術にしてもES細胞にしても拒絶反応や生命倫理の問題があった。そうした点からも人の身体から取り出した細胞に4つの遺伝子をあたえて作られるiPS細胞は再生医療において画期的な細胞である。iPSはinduced Pluripotent Stem cellの略で人工的に誘導された多様性を持つ幹細胞という意味をもつ。例えば人の皮膚の細胞から作られたiPS細胞をその人の眼の網膜や内臓など様々な部位へ移植して拒絶反応なしに再生できる夢の医療応用が研究されている。そして原因不明の難病にも期待されているという。病に苦しむ人々にiPS細胞を届けたいという山中伸弥博士の思いが将来の再生医療や創薬研究への応用の実現へ向かわせている。

しかしiPS細胞の医療応用は人工的に卵子と精子を作り出すことができ、生命倫理面で問題を抱えている。山中伸弥博士はiPS細胞の医療応用を進化していくとともに社会に開かれた研究を目指し、常に生命倫理を念頭におくことも大切だと考えている。CiRAのホームページをみると多岐に亘る研究活動を知ることができる。また上廣倫理研究部門をCiRA内に設けていて倫理面でも社会に開かれていることがわかる。iPS細胞の研究活動は人類の医療の可能性を大きく変えようとしている。医療科学がどんどん進化していくなか、専門家だけでなく私たち自身も生命倫理について考えることが大切だろうと思う。

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