金原ひとみ

「蛇にピアス」
「蛇にピアス」

金原ひとみ(1983.8.8~)という作家を知ったのは彼女の芥川賞受賞作「蛇にピアス」を読んだことがきっかけだった。

この小説の読後感をひと言で書くことは難しい。空虚、欺瞞、偽善などが充満する社会や人間関係の中で登場人物は無垢な心なるが故に屈折していき、タトゥーとピアスで自らの肉体を刻みこむ愉悦に屈折した心の開放を求め続ける。肉体が社会や人間関係の源泉としての親から受け継いだものだとしたら、その肉体自体を自らの意志で変容せずにいられない。私がこの小説から汲み取れたこのような解釈は作家には見当違いと言われるかもしれないが、そう受け止めたし、空虚、欺瞞、偽善などが充満する社会に加担してきたのは読み手の私自身ではなかったか、と刃を向けられたように感じた小説だった。

「アンソーシャル ディスタンス」
「アンソーシャル ディスタンス」

最近、金原ひとみの作品「アンソーシャル ディスタンス」を読んだ。コロナ禍でマスクで顔半分を覆い、人と人との距離を分断され、人間関係が崩れいき、元よりの孤独が更に先鋭的になる、など先の見えない閉塞感が充満する状況の中で喘ぎながら生きる主人公を題材にしたアンソロジーである。

私とは世代がかけ離れた金原ひとみだが社会や人間を洞察する深みを感じる。その深い洞察力を敢えて匿しつつ、きめ細かい多様な言葉同士を繋ぎ怜悧な筆致で展開させる。その物語は露悪的で背徳的で自己破壊的あるが、ぎりぎりのところで社会への異議のニュアンスを嗅ぎとることができる。「アンソーシャル ディスタンス」は「蛇にピアス」から更に深い洞察力を感じさせるアンソロジーだった。

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