南部坂・大三坂

函館は坂道の街である。函館山に向かって左から・・・青柳坂・あさり坂・護国神社坂・谷地坂・南部坂・二十間坂・大三坂・八幡坂・日和坂・基坂・東坂・弥生坂・常磐坂・姿見坂・幸坂・千歳坂・船見坂・魚見坂・・・と市街地から函館山麓へアクセスする坂道が多い。江戸から明治、大正にかけて開港都市として繁栄した歴史を物語る建物や、幾度もの大火を経験して復興を遂げてきた街並みは函館の特徴的な景観を形成している要素として大きな役割を担っている。

昨日は特に私のお気に入りの南部坂と大三坂を歩いた。

 

●南部坂

江戸幕府から北方防衛を命じられた南部藩の陣屋がこの場所にあったことが南部坂の名前の由来だという。

旧丸井今井百貨店
旧丸井今井百貨店

 

旧丸井今井百貨店
旧丸井今井百貨店

南部坂の登り口に旧丸井今井百貨店がある。大正期の1921年の大火で焼失後、1923年に建て替えられた。佐藤吉三郎設計によるセセッション様式の大正モダンを感じさせるデザインである。昭和期の1934年の大火で内部焼失、解体も検討したが構造学の権威・内藤多仲の指導で建て替えではなく改修・増築工事で現在の建物に至っている。戦後は商業の中心がこの場所から東部へ変わっていき、丸井今井百貨店は五稜郭へ移転する。現在は函館市地域交流まちづくりセンターという市民活動の支援施設として使われている。

 

南部坂沿いのレストラン
南部坂沿いのレストラン

 

南部坂沿いのコーヒー店
南部坂沿いのコーヒー店

南部坂には雰囲気のあるレストランや喫茶店がある。

 

函館元町配水場
函館元町配水場
函館元町配水場前を散歩
函館元町配水場前をお散歩
函館元町配水場前の雑貨店
函館元町配水場前の雑貨店

南部坂を登りきると函館元町配水場がある。市街を見おろしながら季節ごとに咲く草花を楽しむことができ、私のお気に入りの場所のひとつである。

 

●大三坂

この坂に大三義兵衛という人の宿屋があったことが大三坂という名前の由来らしい。

聖ヨハネ教会の祭壇から市街をみる
聖ヨハネ教会の祭壇から市街をみる
カトリック元町教会玄関のルオーのステンドグラス額
カトリック元町教会玄関のキリストの肖像画

大三坂周辺にはキリスト教系の教会が建っていて時間になると、鐘楼の音が街に響く。とくに冬の時期、クリスマスイヴなどそれぞれのライトアップした教会が醸し出す大三坂の雰囲気で信仰者でなくとも敬虔な気持ちになる。カトリック元町教会の玄関の壁を見上げたらルオーの複製画だろうかイエス・キリストの肖像画があった。30歳代だったか、出光美術館でルオーのイエス・キリストの聖顔を描いた一連の作品を観て身体が動けなくなったことを思い出した。

 

大三坂のナナカマド
大三坂のナナカマド
大三坂のナナカマド並木
大三坂のナナカマド並木

函館はもう初秋、ナナカマドの実が赤くなり始めた。これからもっと赤みが増してくる。ナナカマド並木の左手のアールヌーボー風の洋館は大正期1921年竣工の旧亀井喜一郎(亀井勝一郎の実父)邸である。設計は関根要太郎と山本節治、関根と山本は函館で銀行や商業施設、病院など大正モダンの建築を設計している。関根と山本が函館の景観に多大な貢献をしていると言って決して過言ではないと思う。

 

大三坂沿いの和洋折衷の建物
大三坂沿いの和洋折衷の建物

函館は和洋折衷の建物が多い。戊辰戦争後の新政府は明治時代に起きた大火後の街区計画でロシアのウラジオストクの街並みを模倣するよう誘導した結果、函館山麓に建つ建物の2階部分を洋風にすることで港から観ると近代都市にみえるようにし、1階部分を日本の商いや暮らしに合わせた和風にすることで独特の和洋折衷建物の街並みができた。それが函館の景観の特徴のひとつになっている。

 

真宗大谷派函館別院の大屋根
真宗大谷派函館別院の大屋根

函館は和洋折衷建物、仏教寺院、キリスト教系教会、洋館などが混在している景観も特徴である。この真宗大谷派函館別院は明治以降の度重なる大火で建て替えを繰り返す。現在の本堂が鉄筋コンクリート造になったのは大正期の1915年で仏教寺院の鉄筋コンクリート造としては日本初である。大三坂からみえる総瓦葺き大屋根の威風に圧倒される。

 

旧仁壽生命函館支店
旧仁壽生命函館支店(2016年9月撮影 現在改装工事中)

この建物は大三坂の下あたりにある。大正期1921年に仁壽(じんじゅ)生命保険函館支店として建てられた。外観からは鉄筋コンクリート造のようにみえるが木造のセセッション風大正モダンの建物である。設計者は不明だが、仁壽生命保険会社本社の設計者が関根要太郎であることから彼が設計者の可能性はある。昨年隣接している土蔵とともに函館市伝統的建造物に指定されている。実は私は移住してすぐにこの建物を観て以来、函館で一番美しい大正モダンの建物だと思っている。現在は改装中で「大三坂ビルヂング」の名称でレストランなどテナントを募集中、オープンしたらますます大三坂が魅力的な坂道になると思う。

天気のいい日、ぶらぶらお気に入りの坂道を歩く贅沢は何にも換えられない。

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