河合隼雄の世界

河合隼雄(1928.6.23~2007.7.19)という人を理解することは私にとって大海に沈むひとつまみの宝石を探すのと同じくらい無謀なことだろうと思う。それでも蛮勇をふるい河合隼雄に興味を持った10年程前から膨大な著書の中から一般向けに出版された数冊の本を読んだ。しかし「こころの処方箋」、「中空構造日本の深層」、「こころの子育て」、「仏教が好き」、「ブッダの夢」、「文藝別冊・河合隼雄」と無作為なアプローチを試みたところで所詮浅学非才の身では大海の波際に立ち竦むしかない。

こころの処方箋
こころの処方箋

それでもこの本「こころの処方箋」は謂わばものの考え方のテキストとして今もずっと携えて事あるたびに読み返している。55項目のテーマについて専門の心理学、哲学、宗教学、文化論などの知見を踏まえながら河合隼雄というひとりの人間の生の言葉で語っている。ここでは悩める心を治癒する処方をしているわけではない。もしかしたら読み手によっては期待が削がれるかもしれない。しかし読み手にもう一歩考える余地をもたせることによって思考の可能性を拡げてくれるところにこの本の本質がある。

河合隼雄の世界を一生かけても理解することができないにしても、未だ暫し残っている余生がある限り、この「こころの処方箋」にお世話になりそうである。

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