伊勢英子

10年前に伊勢英子(1949.5.13~)という絵本作家を知った。絵本「ルリュールおじさん」に出会ってからである。それ以来この作家に魅せられて8冊の絵本と2冊の本を手に入れて繰り返し読んだ。

伊勢英子の絵本
伊勢英子の絵本

伊勢英子は札幌生まれで東京芸術大学美術学部デザイン科を卒業後、フランスに留学して一年間イラストを学ぶ。帰国後は児童書の挿絵、絵本制作などを手がけ、1988年の絵本「マキちゃんのえにっき」で野間児童文芸賞を受賞してから絵本作家としての才能が開花する。

「よだかの星」、「1000の風1000のチェロ」、「絵描き」、「ルリュールおじさん」、「にいさん」、「大きな木のような人」、「あの路」、「まつり」、私が読んで魅せられた伊勢英子作の絵本たちである。

宮沢賢治、チェロ、月、星、風、古い本、ゴッホ、小路の犬、樹など伊勢英子が捉えた対象を丹念に描き込み続ける。決して最初から「愛」とか「絆」とかという大きなテーマから創作が始まることはない。魅力的で具体的な対象に眼を据えて丹念に描き込む結果、それぞれの読み手がそれぞれのテーマを感じ取ってもらいたいと作者は願っている、私の手元にある彼女の8冊の絵本を読んでそう思う。

伊勢英子は38歳の時に右目の視力を失っている。絵本作家にとってこのハンディキャップは絵本創作にどのような意味をもっているのだろうか。彼女が捉える対象を残された視力で視ることの大切を真に感じているからこそ、このような絵本を創作できたのではないだろうか。

昨年の今日11月19日にドキュメンタリー映画「いのち の かたち」が公開された。伊勢英子が東日本大震災の被災地宮城県亘理町に倒れていた一本のクロマツに出会い「生命」を直感しスケッチブックを開いて描きだした。その後の創作するプロセスを4年間に亘って追い続けたドキュメンタリー映画である。やはりここでも一本の倒木クロマツを対象に捉えてから創作が始まるのである。

彼女の夫はノンフィクション作家の柳田邦男、お互いの人格と才能を尊敬し合い、刺激を受け合いながらお互いの創作を高め合う関係に私は憧憬せずにいられない。

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