私は若い頃から谷川俊太郎の詩が好きだった。現代詩は嫌いではないが現代詩の作者にありがちな難解な表現もなく、多世代の人が理解できる平易な表現であり、といってけっして浅薄な詩ではなく、谷川俊太郎が紡ぐことばは広大で、深遠で、自由で、猥雑で、美しくて、意地悪で、優しくて・・・といった豊かなイメージに昇華して読み手に伝わってくる。
谷川俊太郎の随筆も私は好きで、8年前この「ひとり暮らし」というタイトルになんとなく惹かれて読み、それから年に一度程度読み返すのが習慣になっている。
この本は色んな季刊誌や雑誌に寄稿した随筆を纏めていて、三つのカテゴリィから成っている。一つは27のテーマについて綴った随筆「私」、もう一つは空、星、朝、など11のことばについて綴った随筆「ことばめぐり」、もう一つは1999年2月から2001年1月までの日記「ある日」である。子どものころに体験したこと、父や母のこと、恋のこと、死生観のこと、ひとり暮らしのことなど虚心に吐露していて、その筆致はあたかも谷川俊太郎が読者の傍で呟いているように感じる。
しかし谷川俊太郎という人は虚心で真摯な人だと思う一方、希有のことばの詐欺師だと思うことがある。そして真摯と詐欺の揺れこそが谷川俊太郎の魅力なのだと私は思っている。