「君たちはどう生きるか」

君たちはどう生きるか
君たちはどう生きるか

書店に立ち寄ると吉野源三郎・著「君たちはどう生きるか」という文庫本と漫画がとても売れていると書かれた書棚に飾られていた。好奇心から立ち読みして文庫本をもとめて読んだ。

文庫本によれば著者の吉野源三郎(1899.4.9~1981.5.23)は編集者、評論家、翻訳家で「君たちはどう生きるか」は吉野が編集主任を務めた新潮社「日本少国民文庫」の最終配本として1937年に刊行された。日本が1931年の満州事変を端に軍国主義が高まり日中戦争が始まった時代の刊行である。言論統制、思想弾圧の世相の時代に山本有三が主体となって次世代を担う少年少女に人が生きる意味を伝えるために「日本小国民文庫」が刊行される。

「君たちはどう生きるか」はコペル君というニックネームの中学生の少年が主人公で、「僕」と「僕の外にある人々、社会、世界、宇宙」との関係性をどう認識したらいいかを日々の出来事をとおして学んでいく言わば人生読本である。人間は義をもって正しく生きていかなければならない、しかし人間は弱い存在でもあり、義の前で弱さ故に逃避することもある。その弱い自己を超克していくことの大切さをこの本は丁寧に教諭する。少年少女の人間形成について小賢しいレトリックやパラドクスなどを用いず正面から少年少女に話しかけるように書かれていて清々しくさえ感じた。少年少女向けというよりも私のような世代にも新鮮で直截な人生読本として読むことができ、「君たちはどう生きるか」がいま驚異的に広範な世代に読まれているというのも成る程と頷ける。

一方、現代の子どもたちに素直に受け入れられるだろうかとも感じた。「君たちはどう生きるか」の読者のなかにはいじめの問題に悩む人が多いという。

図書館や書店でいじめに関する本を探すと数多くある。インターネットでも夥しい数のいじめに関する情報をとることができる。文部科学省のホームページや各自治体のホームページでも様々なデータや対策の説明がある。このような情報から、いじめ件数やいじめを受けて自死をする子どもの数は減少することがないばかりか増加していることがわかる。

学校、家庭、交友などは今や子どもたちにとって息詰まるような狭い空間となっている。行き場のない空間にいる子どもたちはいついじめの被害者にも加害者にもなってもおかしくない。最近、専門家の中にはいじめ対策の方法として被害者になって一定の対策を講じても改善されなければ、命を守るためにも積極的対策として転校などして逃げることを勧めている専門家もいる。逃げるという行動にいささか抵抗を感じるが、学校、自治体、国が講じている対策の限界を呈しているいじめにはそのような方法もあるのかもしれない。いずれにしても、いじめについてはこれからも難しい課題として私たちひとりひとりに突きつけられている。

広範な世代に読まれている「君たちはどう生きるか」がいじめの被害者と加害者の心にこの本がどのように響くだろうか、この本を読んでそう思った。

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