友人からお借りした宇佐見 承・著の評伝「新宿中村屋 相馬黒光」を読んだ。
私が調布に住んでいた時、新宿中村屋の創業をした相馬愛蔵とその妻黒光(本名・良)が晩年1950年(昭25)年に調布に黒光庵と称した居宅に住んでいたということを図書館でわかり、初めて相馬黒光(1876.9.12~1955.3.2)という名を知ったことを思い出す。しかし相馬黒光という明治生まれのこの女性について名前以外のことは殆ど知らなかったのでこの評伝をとても興味深く読ませて頂いた。
戊辰戦争で官軍に負けた仙台藩の武士の家に生まれ、仙台の名門女学校に入学するも東京の女学校に憧れ、その希望が叶い転校する。その後、宗教家、芸術家、女性運動家、学者、印度の革命家、ロシアの青年、などとの出会い、息子との軋轢など彼女に運命の波が押し寄せてくる。
それにしても相馬黒光という女性をどう捉えていいか、この評伝を読むにつれ解らなくなる。彼女自身これといった思想や文化観を持っているわけではないにも拘わらず宗教、芸術、思想という様々な文化人たちがまるで強力な力に引かれるように彼女の元へ集まってくるのである。とても不思議な女性なのである。きっと実際に相馬黒光という女性に直接会ってみなければ人を惹きつけるその魅力は解らないのではないか、この評伝でそう感じた。相馬黒光に限らず人というのは実際に会ってみなければその人のことをきちんと評価することはできないのではないか・・・それは当たり前のことなのかもしれない。
新宿は学生のころから馴染みのある街で、中村屋サロン美術館にもよく行ったものだ。美術館といっても画廊といったほうがしっくりする美術館で、私好みの空間だった。この評伝を読んで上京する機会があったらまた行ってみたいという想いが募ってきた。