昨日、家の中を整理していたら3年前に75歳で人生を終えた姉が読んでいた数冊の本が出てきた。もう既に無い森文化堂の書店名が入ったカバー、当時流行だっただろう雑誌の写真のカバーなど少年期の懐かしさが私の胸に満ちた。徐にそれらの本をめくると微かな黴臭さが鼻腔に伝わり、赤茶けた表紙が眼に映った。
福田清人・著「若草」、水上勉・著「弥陀の舞」、モーパッサン・著「初雪」、リルケ・著「若き詩人への手紙・若き女性への手紙」、ジッド・著「女の学校・ロベール」、スタンダール・著「赤と黒(上下)」、ヘッセ・著「車輪の下」「望郷ークヌルプ」、カミュ・著「異邦人」、有島武郎・著「或る女(上下)」、柴田翔・著「されどわれらが日々ー」、石川達三・著「私ひとりの私」・・・
これらの本は、おそらくだれでも青春期に読むオーソドックスな本だろうと思うが、姉は青春期にこれらの本をどのような心境で読んでいたのだろう。明治生まれの父方の祖父が本好きな姉の様子をみて、あの子にあまり本を読ませないほうがいい、と云われたと父が言っていたのを思い出す。思想統制が厳しかった時代を経験した祖父だったからだろう。そんな姉が僅かな小遣いを溜めて隠れて本を買って読んでいたのを覚えている。
今はもういない姉が生きていたらこれらの本についてどんな話をしてくれるだろう。今思えば姉が置き忘れていった本を読む愉しみを姉は私に遺してくれたように思う。