私たちが日常使っていることばの中には、専門用語から依拠し、引用されている慣用句がある。
たとえば仏教用語では、四苦八苦、言語道断、金輪際、他力本願、方便、普請・・・等々。また建築用語では、うだつが上がる、几帳面、大黒柱、建て前、羽目を外す、こけら落とし、結構・・・等々、枚挙にいとまがない。
・・・そして弓道用語からきている慣用句として以下のようなものがある。
【手ぐすねを引く】・・・事前に十分な準備をして機会を待つことであるが、麻製の弦(つる)を強化するために「くすね(薬練)」を擦り込む。「くすね」は松ヤニに油分を加えて煮込んで練り混ぜたものである。そして弓を持つ手(弓手)が滑らないように手に塗って戦場などで速射できるように準備したことからこの慣用句ができたという。現在は弓手の滑り止めとしては筆粉(ふでこ:籾殻と藁を焼いた灰)が使われている。
【手の内】・・・弓を持つ手(弓手)で弓を握る方法や形には古くから秘伝の教えと極めて重要な技法があって手の内という。
【手心を加える】・・・手心は弓手の手のひらの窪みで、手心をどう加減するかで的の中り(あたり)に影響することをいう。
【的中】・・・的に中たる(あたる)ことからきている。
【図星】・・・ぴたりと言い当てることをいうが、弓道の的には一般に霞的(かすみまと)を、実業団の試合には色的を、大学などの公式戦には星的を使う。そしてどの的も的全体を「図」、中央の黒い(色的の場合は赤い)部分を「星」ということからきている。なお、鍼灸でも身体のツボに墨で点をつけることも「図星」という。
【〜なはず】・・・矢の羽側の端部を矢筈(やはず)という。矢筈には弓の弦(つる)を番える(つがえる)ために切り込みがある。矢を放つにあたり矢筈と弦と必然的に合う、つまり当然そうなる道理であるという意味からきている。
【輪をかける】・・・弦の張力を得るために弦の両端に輪を作って弓に掛ける。その弦の張力によって矢を放つ、つまり輪をかけて勢いをつけることからきている。
【満を持す】・・・足踏みをし、矢を筈に番え、的を狙い、打ち起し、弓を一杯に引き絞る。そのいよいよというときに満を持して矢を放つ。矢を放つ直前の心構えからきている。
他にも沢山あるが、どれも弓道の心・身・弓の三位一体に通じている。弓道教室に通い始めて7ヶ月半経つが、未だに心・身・弓の入り口にも踏み込めないでいる。しかし弓道用語からくる慣用句には心構えのヒントになり、成るほどと思わせることが多い。弓道教室の教士の方は「的中りより大切なことは体配(動作の作法)です」と常に教えて頂いている。
弓道だけではないと思うが、人が生きていく上での心構えのヒントになる慣用句にはそれなりに意味があるようである。
博識なるご投稿、またまた知識が増えました。
久しぶりに『うだつがあがる』を目にして、ウチも大きな防火壁をあげようかなと、家が連なってないのに、くだらないことが頭に浮かんで来ました。
弓道用語は素敵で意味深いものですね。
今後の投稿を てぐすね引いて待ってます。
ありがたく、洒脱なコメントをありがとうございます。
弓道を始めなかったら知らない慣用句でした。
まだまだ分からないことばかりです。