憲法草案アナザーストーリーズ

NHK番組のアナザーストーリーズは本や教科書では知ることができない事実を放送していて興味深い番組である。今回は「誕生!日本国憲法〜焼け跡に秘められた3つのドラマ」を観た。日本敗戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が新しい日本国憲法草案を起草するその裏にあった3つのアナザーストーリーズである。

1番目は女性の権利の話である。GHQによる憲法草案づくりの中に通訳として加わっていたベアテ・シロタさんという女性がいた。彼女は男女平等についての条項を考えるよう任されたものの日本国側から日本の文化、歴史にそぐわないと言われる。しかしベアテ・シロタさんの熱意と草案づくりを主導していたGHQ民政局次長の日本側への説得で草案に女性の権利の条項を入れることができたという。ベアテ・シロタさんは子どものころ両親と日本に住んでいて、日本の女性が人身売買されていること、家庭内そして社会で不平等な扱いをされていることなどを見聞きしていて子どもながらも衝撃を受けていた。その体験から日本の女性の権利を憲法に明文化しなければならないと思ったという。現憲法の女性の権利を謳った第24条はベアテ・シロタさんがいなければ成らなかったかもしれないのである。

2番目はGHQに先んじて憲法学者・鈴木安蔵氏を中心に日本の民間人7名による独自の憲法草案を作っていた話しである。戦争の不条理を感じていた7名が敗戦後、旧憲法に代わる新しい憲法を作ろうと憲法研究会を結成、喧々諤々のすえ国民主権、象徴天皇、など全58条から成る憲法草案要綱を日本国とGHQに提出、日本国からは全く無視されたもののGHQ民政局法規課長が彼らの憲法草案を読んで非常に素晴らしいと感心し、彼らの憲法草案を少し修正してGHQの憲法草案としたという。戦争に反対する言動をし身柄を拘束された経験を持つ彼らが、戦争は絶対いけないのだという思いが憲法草案要綱をつくる原動力になっていたのだ。

そして3番目はGHQによって伊豆大島を日本国から分離独立せよという命令があってから命令を解除されるまでの凝縮した53日間の島民による憲法草案づくりの話である。戦時中本土防衛の最後の砦であった伊豆大島の島民の思いは平和を真に願うその一点で気持ちは一致していた。その気持ちが分離独立の命令を機に現在の平和憲法に決して劣らない独自の憲法草案をつくることになる。私の知人である郷土史家古橋研一氏がこの事実を調査していたことをこの番組で知った。古橋氏が国会図書館で見つけた当時の伊豆大島の新聞「もとむら」には島民の意見を民主的に公平に載せて草案づくりの糧としていた。また島民はその草案づくりの話し合いの過程で政治のあり方についても話し合っている。そこには大島共和国政治機構案として議会があり行政があり島民のチェック機能をもたせるなど権力分立をきちんと成り立たせる驚嘆すべきものだった。島民の心から平和を願う思いが現憲法に劣らない平和思想に基づく憲法草案を作ったことに敬意を表したい。
今回の憲法草案アナザーストーリーズは、私たちは次世代の人たちに何を伝えていくべきかを考えさせられる番組であった。

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